虫歯治療とは? What is dental caries treatment?
歯科医院で治療頻度の高い治療が虫歯治療です。歯医者と言ったら虫歯、と考える方も少なくありません。しかし、虫歯がいったいどういうものであるかを理解されている方はそう多くないのではないでしょうか?虫歯は専門用語では齲蝕といいます。
虫歯菌が歯を食べる病気、と思っている方も多いようですが、実際は少し違います。歯に食べかすなどが残っていると、それを虫歯菌が摂取し、代謝することで乳酸という酸を作り出します。歯の表面を覆うエナメル質は酸性の物質に弱く、溶けてしまう性質があり、虫歯菌が作り出す乳酸で溶かされてしまった部分が虫歯と呼ばれるのです。
多くの虫歯はこのように形成されますが、これ以外にも虫歯のような症状に陥るケースがあります。食いしばりや歯軋りなどで歯に微小なヒビ(マイクロクラック)ができてしまいそこから虫歯菌が侵入する、炭酸やお酢など酸性の飲み物を過剰に摂取し歯磨きをしないまま放置することによって歯が溶けてしまう、などのパターンです。
虫歯は進行すると神経まで感染を起こし、根の治療をしなければならなくなります。いかに防ぎ、早期発見・早期治療を行うかが、健康な歯を残すためのポイントになります。
虫歯が引き起こす症状
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歯の痛み
神経まで到達した重度の虫歯は、何もしなくても痛みが出ます。自発痛といい、夜間に激しくなるのが特徴です。早急に治療を行う必要があります。
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歯が欠ける
歯が溶かされると一部が欠けてしまい、見た目が悪くなるだけでなく、物が挟まる、欠けた部分が粘膜を傷つけるなどの副次的なデメリットもあります。
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歯の変色
ごく初期の虫歯はチョークのような白、進行した虫歯は褐色〜黒に変化します。ごく稀に、気づかないうちに歯髄が壊死してしまい、歯が変色することもあります。
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歯がしみる
虫歯がエナメル質を突破して象牙質に到達すると、冷たい物で歯がしみる症状が現れます。歯軋りや食いしばりでも症状が現れることがあるので、適切な診断が必要です。
虫歯の原因
齲蝕は時間・糖分・歯質・細菌の4つが複合的に関与して発生すると考えられていましたが、それ以外にもさまざまな要因が考えられます。もちろん、これらも大きな要因ではありますが、これ以外にも歯並びや噛み合わせなどが関与していることがわかってきました。当院では予防的な観点から、歯並びや噛み合わせも考慮した治療計画・予防処置を行っています。
時間 | お口の中に糖分など、虫歯菌の栄養となるものが残っている時間が長いほど、 虫歯のリスクは高くなります。 |
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糖分 | 摂取の頻度や量、その後の歯磨きできちんと取り除けているかどうかが 虫歯リスクに大きく関わります。 |
歯質 | 耐酸性など、歯の性質によって虫歯のリスクが変わります。 歯質はフッ素の塗布などで、向上させることができます。 |
細菌 | 虫歯菌の量や唾液の性質は虫歯リスクに関わります。 これらの性質はサリバテストで調べることができます。 |
歯並び | 歯並びが悪いと歯磨きがしにくく、噛み合わせも悪くなるため 虫歯や歯周病のリスクが高くなります。 |
噛み合わせ | 噛み合わせが悪いと局所的に負担が大きくなり、マイクロクラックや 歯の咬耗などが起きやすく、虫歯のリスクが上昇します。 |
FLOW 虫歯の進行と症状
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脱灰
歯の最表層のエナメル質からカルシウムが失われて、真っ白に変色してしまった状態です。虫歯の最初期で、痛みやしみるなどの症状はありません。放置すると虫歯が進行してしまいますが、この状態で見つかれば、ブラッシング指導などで、元の状態に戻る可能性があります。
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エナメル質齲蝕
脱灰を放置して進行してしまうとエナメル質齲蝕になります。エナメル質の部分に実質欠損(欠けている部分)がある状態です。痛みやしみると言った症状はほとんどありませんが、かけた部分が尖っていると、粘膜を傷つけたり、噛み合わせが変わって粘膜を噛みやすくなる、食べ物が挟まりやすいなどの症状が現れます。
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象牙質齲蝕
エナメル質齲蝕がさらに進行すると、象牙質齲蝕になります。象牙質はエナメル質の内側にある柔らかい層で、無数の管が寄り集まったような構造をしています。象牙細管と呼ばれる管の集合体で、内部には象牙芽細胞という象牙質を作る細胞の突起が含まれています。
象牙質は歯髄と象牙質歯髄複合体を形成しており、この部分が齲蝕によってお口の中に露出すると、冷水などで痛みを感じるようになります。象牙質は柔らかく、虫歯が進行しやすいため、速やかに取り除く必要があります。 -
歯髄炎
虫歯がさらに進行すると虫歯菌が歯髄に感染し、歯髄炎を引き起こします。何もしなくても痛い自発痛が特徴で、夜間にひどくなる傾向があります。歯髄炎には、可逆性(元に戻る)のものと、不可逆性(元に戻らない)のものがあり、不可逆性の場合は抜髄という歯髄を除去する治療が必要です。
歯髄を取り除いた歯は弱くなり、寿命が短くなってしまうため、抜髄を行うかどうかは慎重に判断する必要があります。当院では、不要な抜髄を避け、治療を最小限に留めるために、厳密に診断を行っています。また、不可逆性の歯髄炎の場合は、マイクロスコープやニッケルチタンファイルなどを用いた精密な治療が可能です。 -
根尖性歯周炎
歯髄炎やなんらかの理由で歯髄が全て失活(死んでしまうこと)し、放置すると、根の先に膿の袋ができる根尖性歯周炎に移行します。自発痛はないことが多く、噛むと痛いという症状が現れることがあります。
また、1度根の治療を行っていても、根の中に細菌などが残っていると根尖性歯周炎を発症することがあります。レントゲン写真で偶然発見された根尖性歯周炎は症状がなくてもきちんと治療しなければ激烈な痛みをもたらしたり、歯が折れて抜歯になる可能性があります。 -
残根
虫歯が大きく、根の治療を行っても残すことができない状態です。無理に残そうとすると細菌の巣になってしまい、いつまでも炎症が残ってしまいます。インプラントや義歯で歯を補う必要があります。
当院ではなるべく抜歯にならないようあらゆる手を尽くし、慎重に検査を行いますが、それでも抜歯が必要になる場合は抜歯後の治療法も含めてご提案いたします。
TREATMENT なるべく神経を保存する治療を行います
神経がなくなってしまうと、歯は弱くなってしまい、寿命は短くなります。そのような事態を防ぐためには、歯髄を取るような状態にしないのが1番ですが、虫歯が大きい場合はどうしても処置が必要になる場合もあります。当院では慎重に診断を行い、なるべく歯髄を保存できるよう努めています。
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間接覆髄法 INDIRECT PULP CAPPING
虫歯と歯髄の距離がごく近い場合、そのまま詰め物などをしてしまうと神経が壊死してしまったり、不可逆性の歯髄炎に移行してしまうことがあります。これを防ぐために行うのが、間接覆髄法です。
薄く残った象牙質にMTAセメントなどの特殊なセメントを塗布してから詰め物をします。これにより、しっかりと消毒し、新たな象牙質を作って歯髄を保護することができます。 -
軟化象牙質の再石灰化 REMINERALIZATION
虫歯が大きく、全て虫歯を取りきると歯髄が入っている歯髄腔まで達してしまうと考えられ、かつ歯髄が感染による明らかな炎症を起こしていない場合、わざと感染した歯質を1層残します。
その後、MTAセメントや同様の成分を含むバイオセラミックスパテなどを塗布して仮封し、数ヶ月おきます。すると、感染歯質が消毒され、象牙芽細胞の作用により、新たな象牙質を形成されます。 -
直接覆髄法 DIRECT PULP CAPPING
歯の形を整えている時に偶発的に歯髄が露出してしまった場合などに行うのが直接覆髄法です。露髄した部分にMTAセメントまたはバイオセラミックスパテを塗布し、殺菌と象牙質の形成促進を行います。これにより、露出部分が閉鎖され、歯髄を健全なまま保存できます。
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部分断髄法 PARTIAL DEMYELINATION
細菌に感染した歯髄を部分的に除去し、感染していない歯髄を残す治療法です。感染の有無を確かめるのは通常の診療では難しいのですが、当院では精密な検査の上、感染した部分のみを取り除き、歯髄を残すことができます。
ただし、歯髄の診断は非常に難しいため、感染や炎症が拡大した場合には、全部断髄や、抜髄になってしまう可能性もあります。 -
全部断髄法 ALL DEMYELINATION
歯の中の空洞は、大きく分けて、歯髄腔と根管の2つがあります。歯髄腔はおよそ歯冠(歯の見えている部分)の内部にあり、この部分の歯髄をほとんど全て取り除くのが全部断髄法です。根の部分の歯髄を残すことで、歯の寿命を保つことができます
MTAセメントとは?
MTAセメントは水分で固まる水硬性セメントで、強アルカリ性を示します。お口の中や象牙質には水分があるため、通常のセメントは固まりにくい、もろくなってしまうなどのデメリットがありますが、MTAセメントは水分があってもしっかり固まり、なおかつ封鎖性も良いため、唾液などを介して細菌が入り込む心配がほとんどありません。
さらに強アルカリ性は、細菌を死滅させ、殺菌効果を示します。このようにメリットの多いMTAセメントですが、練和(粉末と液体を混ぜ合わせること)が難しく、操作性が悪い、使用には高い技術が必要、などの問題点がありました。
当院ではこれらを解消した同様の効果を持つパテ状のバイオセラミックスパテも導入しています。歯の状態や部位などによって使い分けていますので、気になる方はぜひ担当医にご相談ください。